出会いのエピソード1
2011/09/15 21:40:34
大学時代の仲間で集まる会を
最低1年にい1回は開いてる彼とその仲間たち
今日は去年の夏以来という
その集まりに行くため
彼は夕方から出かけて行った。
彼がいない家の中は
ひっそりとして寂しく
ただでさえ広いリビングがよけい広く感じる。
休み明けの仕事に備えて
私は仕事部屋で資料をまとめることにした。
手にしたファイルを開くと
私と彼が初めて会ったあの日に撮影した
花の資料と一緒に
一枚の絆創膏が出てきた。
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その日はスタジオで
雑誌の撮影だった。
花と男性モデル達というコンセプトだった。
たしか10人程の男性モデルがいたと思う。
ひとりひとりのイメージに合わせて花をセッティングしなおす
花は脇役だけど
彼らの魅力を最大限に引き出す小道具であり
寄りの画も多く
花の鮮度を保たせるのが大変だった。
カメラの前で彼らの作り出す表情は
まさしく十人十色で
女性の私から見ても
目の保養になりますね的なのりだった。
彼の番が来た。
はじめは白いコットンシャツを着たアップ
手に持つ花はガーベラ
さまざまな表情を見せる彼
カメラマンの要求にも余裕の表情で応える
さすがクールな彼だけあるわと
たいして気にも留めずに
私は自分の仕事をたんたんとこなしていた。
白のジャケットの胸元に
アレンジメントのコサージュをとめようとした時
私は誤って自分の指をピンで刺してしまった。
「痛・・」と声が出てしまった
その瞬間にカメラを見ていた彼の目が
私の指をとらえた
「大丈夫ですか」
ちいさく聞かれた私は
コクンとうなずき
すぐにその場を離れた。
刺した傷から出る血で
モデルの白いジャケットを汚したら大変
私はアシスタントに後を任せて
スタジオの隅で傷の手当をしていた。
休憩も兼ねて
椅子に座っていると
「これ」と差し出された絆創膏。
顔をあげると
そこに立っていたのは
彼だった。
「ありがとう。でもほら」
私は既に絆創膏が貼られた右手を見せた。
「あ、そうですよね。」
と引き返そうとする彼に
「でも、もらっておく。その絆創膏。」
と声をかけ
彼の左手から絆創膏を抜き取った。
「この仕事に絆創膏は必需品なの」
彼ははにかんだように笑い
何か言おうとした。
でも
「おーい」
スタッフから声がかかり
彼は小走りでその場から立ち去っていった。
その後も撮影は順調に進み日付が変る頃予定通りに終了した。
少し疲れていた私は
事務所に戻らず直接自宅へ戻ることにした。
もう深夜2時近く
マンションのエントランスには全く人影が無く
シーンと静まり返っていた
オートロックの施錠を解除しようとしたとき
手に持っていた荷物を降ろさず横着をしたばかりに
何の拍子か
けつまずいて転んでしまった。
エントランス中に音が響き渡り
心臓が縮みあがった。
その時
私に向かって
駆け寄ってくる男性がいた。
びっくりする私を抱き起こし
「大丈夫ですか」と声をかけてくれた。
どこかで聞いたことのあるこの声・・・
顔をあげると
声の主は
昼間の彼だった。
「どうして・・・」
「あ、オレここに住んでるんです」
「ホントに・・・」
「こんな深夜に嘘言いません」
彼はちらばった荷物を拾い集め
自分の鍵でロックを解除した。
「オレが部屋まで荷物運びますよ」
てきぱきと動くその姿にあっけにとられ
彼の指示に従い
無事に部屋に帰りついた
玄関先まで荷物を運び入れた彼は
「もう遅いんでこれで帰ります。
今度オレに飯ごちそうしてください。今日のお礼に」
そういうと
颯爽とエレベーターホールのほうに消えていった彼。
私は何がなんだか混乱する頭で部屋にあがり
とりあえず落ち着こうと冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出し
そのまま一気に飲みほしてしまった。